2021年現在、世の中はIT人材の不足、つまりSE・PGの需要がうなぎ登りの活況を迎えています。
しかし、だからと言ってSEの仕事はラクか?大事に扱ってもらえるか?と言うと話は別です。
人それぞれですが、私がキャリアアドバイザーとしてご相談頂く皆さんの悩みは、だいたい次の5つに分類されます。
- 給料に不満
- 会社の経営方針に疑問を感じる
- 上司との折り合いが悪い
- やりがいを感じない
- 忙しすぎる
概ねご相談を受けますと、上記のようなお悩みを打ち明けてられる傾向にあります。
ですが、そうは言っても「単に悩みを話して終わり」と言うことは殆どありません。
大抵はこの先のキャリアについて、前向きな希望をお話ししてくれます。
中には現実離れした希望を口にする人もいますが、少なくとも前向きでいることは良いことなので、それはそれで良しとしましょう。
ところが、SEの皆さんにお会いすると、追い込まれていると言うか、追い込んでしまっていると言うか、
「これはキツイなあ・・・」と感じることが少なくありません。
将来の展望云々以前に、目の前のことで疲れ切っていると言う印象を強く持ってしまいます。
SEの仕事は「7K職種」と呼ばれ、過去にはそれを理由に敬遠されてしまうこともありました。
なお、SIer全体の退職理由や背景について、「SIer勤務のSEが「辞めたい」と思い詰めてしまう背景とは?」のページで解説しています。
SEが辛い、辞めたいと感じる要因「7K」とは?
SEの仕事がここまで需要が大きくなり、「食いっぱぐれない仕事」として注目を浴びるま前、SEは「7K職種」と呼ばれ敬遠される職業でもありました。
7Kとは何のことかと申しますと、以下の7つの要素のことです。
SEの「7K」
- キツい
- 帰れない
- 給料が安い
- 休暇が取れない
- 規則が厳しい
- 化粧が乗らない
- 結婚できない
おそらくSEの皆さんに「あなたの仕事は7Kですよね?」と質問すれば、ほとんどの人が「そうですね」とお答えになることでしょう。
つまり、今もSEの実態はさほど変わっていないということです。
働き方改革の影響もあり、見かけ上の残業時間は月間40hくらいになったという人でも、きっとそれ以外の部分に皺寄せが来ているはずです。(多くは管理職である上司や、孫請け企業が影響を受けています)
なぜ、SEの過酷さがことさらにメディアなどでクローズアップされるのでしょうか?
私は、とても単純なことが理由ではないかと考えています。
つまり、
- それだけSEと言う仕事が注目されている。
- SEと言う職種に就いている方が母数として多い。
と言う2点が大きな理由でしょう。
そして、この2点を深掘りすると、もっと本質的な理由も潜んでいるだろうと考えています。
先ほど紹介した通り、確かにSEの皆さんには過度なストレスがかかっているようですし、現状で元気がないどころか、将来の展望すら描けない人がいます。
なぜそんな状況になっているのでしょうか?
まずはその辺りから話を進めてみましょう。
SEの仕事内容と選んだ理由、そしてなぜ辛さを感じるのか?
システムエンジニア(SE)の仕事内容を平たく定義すると、以下のようになるかと思います。
SEの仕事内容とは?
- 企業・団体に向けて、どんな情報システムが必要なのかと言う構想を練る。
- 具体的にどのような仕組みにすべきなのかを検討する。
- 実際に情報システムを作る。
- 作った後のシステムの面倒を見る。
SEの仕事を選んだ理由は?
このようなSEの仕事を、そもそも現役SEの皆さんはなぜ選んだのでしょうか?
キャリアアドバイザーとしての経験を通じて言うと、ざっと次の2つの動機を持った人が多いようです。
- 顧客の役に立つ仕事がしたい。特にこれからはITが企業活動にとって重要なファクターになるのでSEと言う仕事で顧客に貢献したい。
- 昔からPCでプログラムを組むのが好きだった。好きが嵩じてこの仕事をしている。
つまり、キーワードは「顧客」あるいは「テクノロジー」へのこだわりなのですね。
「顧客」にこだわった就職をした人は、当然、顧客との接点を大事にします。
顧客のニーズを理解して引き出し、提案すると言う「問題解決」の役割を担うところにやりがいを感じるのです。
「テクノロジー」にこだわってSEに就職した人は、「自分で作ること」や「独創性」「先進性」などを大事にする傾向があるようです。
キャリアアドバイザーの立場からすると、「SEが辛い仕事」と言われて久しい現状には、
こうしたみなさんの思い描いた「理想と現実の仕事内容のギャップ」が大きいことが一因であると分析しています。
ではこのギャップとはなんなのでしょうか?現実の仕事内容を見つつ、SEの辛さの原因を探ってみたいと思います。
SEの辛さの原因「理想と現実のギャップ」とは?
キャリアアドバイザーの立場からすると、「SEが辛い仕事」と言われて久しい現状には、
こうしたみなさんの思い描いた「理想と現実の仕事内容のギャップ」が大きいことが一因であると分析しています。
私がみなさんからの相談を元に考える、「理想と現実のギャップ」は以下の5点が考えられます。
- ERP導入の浸透でSEの仕事がつまらなくなった。
- 発展途上の「標準化」によってデスマーチが起きる。
- 組織の構造上、階層ごとに求められるスキルが変化する。
- 業界の構造上、上流に比べ「現場で頑張っている人」が報われなさすぎる。
- 「負の連鎖」を生み出す組織の疲弊感=あきらめの空気。
それぞれ重たそうですね。みていきましょう。
原因① ERP導入の浸透でSEの仕事がつまらなくなった
SAP等をはじめとするERPパッケージの導入が、どんな企業でも当たり前の選択肢となって久しいです。
一昔前までは、すべてオーダーメイド、スクラッチで開発していたシステムが、あっという間にERPパッケージに取って代わられてしまいました。
ゼロから作ることに比べれば開発期間が短く、そして開発の手間が少ないように見えるERPの普及は、一見するとSEにとって朗報だったかのように思えます。
確かにそうした側面も否定できません。
ところが、どうやら思わぬストレスを生むことにもなっているようです。
通常、ERPパッケージには「会計/販売管理/在庫管理/生産管理/顧客管理」など企業内に存在する様々な業務について、そのお手本となる業務プロセスが規定されています。
しかもそれは、世界中の優良企業と言われる会社の先進的かつ合理的な業務プロセスを集約した、まさに理想の業務プロセスで構成されているのです。
つまり誤解を恐れず言うと、
かつてはクライアントのニーズやSEが考える「あるべき業務プロセス像」に基づいて情報システムの構想が練られていたのに、
今となっては「ERPパッケージこそがあるべき業務プロセス像」になってしまっている。
だから、SEの仕事は「ERPをいかにスムーズに導入するか」となってしまい、もっと言うなら「いかに顧客を納得させるか」にまでなってしまっていると言えるわけです。
上述の「みなさんがSEを選んだ理由」と比較すると、
「顧客のニーズを掴み提案する」「システムの独創性を追求する」と言ったこととは相反してきます。
これがSEの理想と現実のギャップであり、SEの辛さの原因として考えられる1つ目です。
原因② 発展途上の「標準化」によってデスマーチが起きる
二つ目には、主に情報システムにおける標準化の規定遅れによって、
「同じ作業を何度も何度も繰り返さざるを得ない状況」、いわゆるデスマーチが引き起こされていることが辛さの要因に挙げられます。
情報システム開発全般において、様々な標準化団体がプロジェクト管理やシステム開発などの標準化を進めています。
しかしながら、この手の情報システム開発のエキスパートの方に話をお聞きすると、これらの標準化は随分と遅れているそうです。(他の成熟業界、例えば航空機や建設業などと比較して)
これがSEの辛さの要因の一つになっているのではないか?と感じます。
確かに私も現役の現場エンジニアだった頃、詳細設計書を書きながら、「分かりづらいし回りくどい」と感じたものです。
現在のSEの仕事も、その多くは成果物の完成に向けて直線的に進むわけではありません。
口頭、もしくは文章上現状のコミュニケーションミスによって引き起こされた設計ミスや、矛盾といったものを埋める作業に、多くの工数が充てられています。
このようにして、「同じ作業を何度も何度も繰り返さざるを得ない状況」が起きてしまうのです。
これもまた、SEの仕事を辛くしている一因と言えます。
原因③ 組織構造上、階層ごとに求められるスキルが変化する
日本では、情報システムに携わる人のキャリアパスとして、
「プログラマー(PG)→システムエンジニア(SE)→プロジェクトマネジャー(PG)」と言うモデルがまず頭に浮かびます。
SEの次のキャリアとしてコンサルタントという道もあるでしょうし、最近ではITアーキテクトと呼ばれる、システム基盤(アーキテクチャー)を構成する専門職種も注目されています。
また、2002年に経産省が策定した、ITSS(ITスキル標準)によれば、IT業務従事者の職種や階層はさらに詳細に定義されています。
とは言え、ほとんどのSIerでは、今もPG→SE→PMというキャリアパスが主流です。
このピラミッド型のキャリアパスにも、SE(というよりITエンジニア全般)の辛さが潜んでおり、その理由は2つあります。
1.上の階層に行ける人数には限りがある
一つは、当然のことながらピラミッド構造であるがゆえに、上の階層に行ける人数には限りがあるという事実です。
もちろん、これは何もITの世界に限ったことではありません。
しかし、特に「SEからPM」へのパスは狭き門となっていることが多いです。
2.顧客との接点が増えることでコミュニケーション能力が求められるようになる
階層によって求められるスキルは大きく変わります。
プログラマー時代には、それこそプログラミンスキルが評価対象になるわけです。
が、プログラミング能力を買われてSEになると、今度は顧客との接点が増えることから、新たにコミュニケーション能力が求められるようになります。
そして、プロジェクトマネジャーになると、いわゆるリーダーシップや管理能力が問われるのです。
あるべき論で言えば、コミュニケーション能力にせよリーダーシップにせよ、社会人として備えておくべきスキルではありますが、もともとエンジニアを目指した人の性質について思い出してみてください。
上述の通り、「テクノロジー」にこだわった就職をした人は、もともと作ることに喜びを感じているのです。
どんなにコミュニケーション能力が大事だと言われ理解していたとしても、その方面に興味がわかなかったり、全くと言っていいほど適性がないという可能性すらあります。
つまり、上の階層への昇格要件と昇格後に求められるスキルにはギャップがある、ということです。
コミュニケーションがあまり好きじゃないからエンジニアの道を志したのに、、という人もいるかも知れませんね。
私もどちらかといえば、そのような考えを持っていましたので辛いだろうなとしみじみ思います。
日本特有のSEキャリアパス事情
このような、スペシャリストからゼネラリストへ進むというパスは日本特有のものです。
海外ではそうしたキャリアパス以外にも、それぞれの職種でより専門性を高められるようなパスを設けていることが少なくありません。
かつて私の先輩が言っていました。
「アメリカでは、プログラマーというのはとてもステイタスの高い仕事の1つなんだ。
一握りのスーパープログラマーたちが、世の中を大きく変えるようなソフトウェアを作っていて、周囲からリスペクトされている。
日本にもスーパープログラマーを認知する土壌ができないと、いつまでたってもアメリカに勝つことはできない。」
この意見に、私も大いに共感します。
原因④ 業界の構造上、「現場で頑張っている人」が報われない
よく言われることですが、システム開発の仕事の流れは建設業界の構造に似ています。
元請け(プライムベンダー)と呼ばれるSIerが、ユーザー企業からシステム開発のプロジェクトを受注し、その作業が二次請け業者に発注されます。
そして、その二次請け業者はさらに三次請け、四次請け、場合によってはさらにその下へと仕事を流していくのです。
ですから、現場で実際にプログラミングをしている皆さんは、元請けから見るといくつもの企業を経て、その場にいることもあるわけです。
そして、当然のことですが、1社経由するごとに1社分のマージンを除いて発注が行われるわけですから、現場で仕事をしているエンジニアの所属企業がもらっている単価はどんどんと少なくなっていきます。
ちなみに、元請けが得る単価を100とすると、実際現場にSEを送り込んでいる下請け企業の単価は50〜70くらいであるとも言われています。
現場で頑張っている人が報われない・・・。なんだかおかしいですよね。
ただ、昨今は派遣法の改正により、偽装請負の監視が厳しく強化されてきています。
こうした業界構造も少しずつ変化していくことを期待しています。
原因⑤ チームに疲弊感、あきらめの空気が漂いやすい
これまで紹介してきた様々な要因が重なり、システム開発の現場では日々SEの皆さんが苦労に苦労を重ねているのです。
詰め切れない要件、度重なる仕様変更、安い給料、終わらない作業・・・
そうした状況が重なると、開発の現場にはあきらめに近い空気が漂います。
「SEの辛さの最大の要因は、実はこのあきらめの空気ではないか」と私は考えています。
急に精神論めいたことを言って恐縮ですが、人間誰だって前向きな気持ちでいる時には、少々辛いことがあってもそれを乗り越えて何かをやり遂げようとします。
でも、一旦気持ちが後ろ向きになると、作業の効率は落ち、そもそも作業自体を敬遠するようになります。
それでもやらなくてはならない。
そこにSEの皆さんの最大の辛さがあるのではないでしょうか?
SEの「辛い、辞めたい」を乗り越えるためには?
ここまで、「これでもか」というぐらいSEが辛くなる外的な要因についてお話ししてきました。
書いていても気が滅入るぐらいの内容なので、まさに現場で奮闘している人はもっと辛いこととお察しします。
でもここであえて問題提起します。
「みなさんが辛い原因は、本当に外部の問題だけなのですか?」
月並みですが、私が影響を受けた本の一つに、スティーブン・R・コヴィー氏が書かれた『7つの習慣』という本があります。
色々と素晴らしいことが書いてあるのですが、その中で特に心を動かされたのは、「関心の輪と影響の輪」というテーマです。
その内容によると、
「人間は、自分でどうにかできることよりも、自分にはどうにもできないことで悩み、右往左往する」
のだそうです。
コヴィー氏はこうも言っています。
「自分が動く(あるいは考える)ことで変えられるようなことにだけ、注力しなさい。」
SEとして辛い環境で働く皆さんに当てはめてみますね。
- 今の会社(もしくは仕事)を選んだのは誰ですか?
- 今の仕事を続けているのは誰ですか?続けると決めているのは?
- 今の仕事を辛いと感じるのは誰ですか?
この3点について、みなさんも考えてみてください。
おそらく、全て自分で決めたことなんですよね。
SEのキャリアプランは何から考えればいい?
私のところに相談に来る人の、だいたい80%くらいは、今の会社のことを悪く言います。
こんな世の中ですから、皆さんの言う通り理不尽なことも少なくないのでしょう。
そして、嫌なことをグチるのも決して悪いことではありません。
グチを言うことで発散されるものもあるのですから。
でも、ここからが分かれ道です。
今の会社を辞めて転職しようとしている人がいるとしましょう。
仮にAさんとBさんとしますね。
- Aさんは「もっと環境の良い会社に行きたい」
- Bさんは「もっと自分がやりたいことのできる会社に行きたい」
どちらも理解できますよね。
ただ、キャリアプランの観点から言うと、Aさんの動機はいまひとつです。
Aさんの想いには「自分」と言う観点が欠けているのです。
一方、Bさんは「自分は〇〇がしたい、なりたい」と言う明確な意思を持っています。
「キャリアを設計する」と言うことは、「自分」と言う視点があるかどうかだと私は考えています。
ですから、SEとしてのキャリアプランを考えるとき、まず軸として考えるべくは「自分の意思」なのです。
よく、「僕はどの会社に行けば幸せになれますか?」などと聞かれるのですが、残念ながら私にはその答えはありませんし、もっと残念ながらその質問をした人は、転職してもかなり高い確率で後悔をしてしまうと思います。
なぜなら、やはり「自分の意思」が抜けているからです。
「自分は何がてきて」
「何をしているときに活き活きとしていて」
「何を大事にして」
「何を目指すのか」
と言ったことを考える一連のプロセスを、私はキャリアプランニングの本質だと考えています。
その上で、そうした自分の思いを実現できる「場所(企業、働き方)」を選ぶことが大切です。
つまり、キャリアプランニングとは
「己を知り、敵を知り、戦略を立て、実行する」と言うこと。
自分を理解し、会社を理解し、転職や昇進についての戦略を立て、実行すると言うことなのです。
言っていることが難しい!と言う人へ。
とは言え、このようなことを考えるには言っていることが難しすぎてよく分からないと言う人もいることでしょう。
ネット上で偉そうにのたまっても、「考えたけど妥当?」かどうかも判断しにくいです。
1度でも転職したことがあるとか、自分なりに仕事に対して「信念」を持てるくらいに仕事をやっていればあたり付けはできるでしょうが、正直やっぱり辛いでいっぱい、難しいのも事実です。
私のようなキャリアアドバイザーや、キャリアコンサルタントと呼ばれる人を頼るのもアリですが、実際お金がかかります。
その点から言うと、中立な立場から相談に乗ってくれるのは「転職エージェント」のアドバイザーということになります。
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その過程で自分が信頼できるアドバイザーのところで転職すると言うのがオススメです。
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